医学論文を翻訳するということ
ある翻訳会社の独り言:その1
当翻訳事務所は医学論文専門の翻訳会社です。医学論文を翻訳していると必ず「難しくないか?」というリアクションがかえってきます。専門性の高さから、医学の翻訳は非常に困難が伴うのではないかと思われています。しかし私の経験からすれば、論文ほど理路整然と書かれている文章はありません。そもそも読者を納得させるためのものですから、理解が困難な英文は使われていないのが現状です。もちろんある程度の知的な文章は必要です。でも、だからといって、難解な文章が使われることは殆どありません。むしろ定型的な表現が頻出し、慣れればすらすらと読めるようになります。
【日々の研鑽に医学論文アブストラクト】
もちろん、日々の研鑽は大切です。私の医学論文読解研鑽方法は、NEJM日本版のサイトにある医学論文のアブストラクトを、日→英、英→日と原文と翻訳文を交互に細かく対比させて読んでいく方法です。最新の医学情報をキャッチできると同時に、正統医学英語を学ぶことが出来ます。超お勧めの医学論文読解の方法です。
専門用語については、実は、昨今の電子辞書の発達のおかげで驚くほど迅速に正しい用語検索が出来るようになってきました。10年前とは隔世の感があります。1度出会った専門用語はメモリー登録し、2度目の翻訳でも迅速な対応が可能です。
【大事なのは情報処理力と助人になってくれる力強い専門家たち】
「膨大な医学専門知識」を持ち合わせているかのような誇大な宣伝を見ることがありますが、私の知る限り、医師出身の医学翻訳家でない限り「膨大な医学知識」を持っている人は皆無ではないかと思います。それよりも、不明な点があったときに、短時間で調査する力の方が求められます。実はこの検索力または情報処理力は多くの場合仕事量に比例して伸びていくものです。それにプラスして人的ネットワークがあればなおいいと思います。幸い私は、周囲に医師、薬剤師、臨床心理士がおり、恵まれています。いざとなればいつでも助人になってくれる力強い専門家たちです。
【医学統計学の理解】
医学翻訳家にとって一つのハードルは「医学統計学」です。多くの翻訳家にとってブラックボックスとなっている医学統計学を理解せずに上手な翻訳はできません。かくいう私も以前は全く理解できませんでした。統計処理は自説の正しさを証明する大切なパートです。しっかり内容を理解せずに翻訳すると誤訳のリスクが高まると思いました。従って、なんとか理解したいと思い、何冊もの入門書を独学しました。現在ではようやく基本はクリアしたと言えるようになりました。高いレベルまで到達したいと思い、今でも統計学の独学は継続中です。
【自動翻訳機に頼りません】
私は自動翻訳機に頼りません。全てマニュアルで訳しています。自動翻訳機が医学論文を翻訳することはいつまでたっても難しいようです。テストしたことがありますが、支離滅裂な日本語もどきでした。でも期待したいです。将棋の世界ではとうとうロボットが人間を追い抜きました。翻訳の世界もいつか本当に役立つ自動翻訳機が登場してもらいたいものです。
最近は、医学に加えて、スポーツ医学、作業療法の分野の論文のアブストラクトの翻訳の依頼を受けることもあります。他の翻訳会社よりも早い、安い、正確な翻訳をお届けしたいと思います。