優れた翻訳を目指して
ある翻訳会社の独り言:その2
「どうしたら翻訳家になれるのですか?」と尋ねられることがあります。最初は私こそ大いに知りたい疑問の一つでした。私が翻訳を始めたきっかけは薬学の投稿論文の翻訳ですが、経緯はどうであれ、継続して仕事を頂くためにはクライアント様に満足して頂ける質をアウトプットしなければなりません。そのために日頃気をつけていることを書いてみます。
【原文で重視されている要素を訳文でも重視】
クライアント様の中には、依頼した訳文がなかなか文意のつかめない長い文章であった経験はないでしょうか?英文解釈としては正しいのですが、翻訳としては失格です。まず、英語は「配列が重要」(大西泰斗先生から学びました)です。英語では基本的には重要な情報から先に提示されています。その発話者が重要と思う情報から先に発話されている、ということです。従って、原文の意図を正しく翻訳するためには、この情報の順序を無視してはいけません。学校では「後ろから掛かる」と私は学びましたが、現実はそうではありません。基本的には先に提示された情報から訳してくのが正道です。そうすることで、原文で重視されている要素を訳文でも重視することが可能です。そのためには時には長い文を途中で切ることも必要です。
【文法もネイティブレベルで理解】
次に、基本単語と英文法をネイティブレベルで理解することです。「have」「give」「get」「make」「take」「of」「to」「with」「about」などは学校英語のレベルで留まっていると翻訳原稿を誤解する可能性があります。文法もネイティブ感覚で理解しないと、いつまでも受験英語を卒業することが出来ません。この点に関して大きな洞察を得られたのは、前述の大西泰斗先生の著書と田中茂範先生の著著です。目から鱗とはまさにこのことでした。大いにネイティブ発想に近づけたような気がします。
【専門用語も辞書検索が可能に】
専門用語についてはどうでしょうか。実は、辞書に関しては、この10年で大きく改善され、その有用性は目を見張るばかりです。短時間で多くの辞書検索が可能になりました。翻訳も適格です。例えば薬学の翻訳の分野は薬品名も多いのですが検索にあまり時間を費やしたことはありません。ちなみに、機械翻訳は私が経験する限り役に立ちませんでした。
それから、「表現集」を作っています。これは使えるぞ、と思った表現は日英を問わず、拾い集めています。一部は「医学論文英語頻出表現集」としてFB上で、「医学論文翻訳君」としてツイッター上で公開中です。
【最終確認は音読】
翻訳が終れば声に出して読んでみることにしています。翻訳に不自然さがあれば、音読することでほとんど発見することが出来ます。普段は、英語論文はもちろん、日本語の小説や新聞なども可能な限り音読しています。音読で自然な語順や文体を極めたいからです。最後に、私個人の専門家とのネットワークも役に立っています。薬学であれば友人の薬剤師や薬学博士との密接な関係です。先日もアブストラクトの翻訳中に疑問点が生じ、アドバイスを頂きました。結局、地味な努力しかしていませんが、継続することでどこよりも安い、早い翻訳が可能になるのです。